山手・谷戸坂 栄枯の面影

坂下の製氷工場跡

谷戸坂の登り口の南側、つまり元町側には、ずっと昔から製氷工場があったように記憶しています。どれくらい昔からなのかと調べてみると、明治12年(1879)に設立された Japan Ice Company までさかのぼることができるそうです。この会社は、その後、オランダ人のL.ストルネブリンクに買い取られ、さらに明治45年に「帝国冷蔵」に譲渡されましたが、創業以来の建物は大正12年(1923)の関東大震災で倒壊しました。右の写真は、その遺構ではないかと思われるレンガ壁です。震災後からつい最近まで建っていたなじみ深い下見板張りの建物は、平成12年(2000年)に解体されました。その後、みなとみらい線の駅やフランス山など、周辺の整備工事の際に、一時期だがこの古壁が姿を現しました。
(2004/Apr)

壁の厚みはレンガの長手2枚分ぐらいでしょうか。こういうのを「壁厚二丁積み」というようです。

突き出た隔壁の手前の部屋には黒い塗料が盛られていたようです。
(2004/Mar)
レンガの壁と一体になったような石の擁壁。古そうですが、建物の陰になっていたものか、あまり風化しておらず、表面にタガネではつったような跡が残っています。後の山一帯は関東大震災で大きく崩れたと聞いているので、震災後のものかと思います。積み方はト・ツー・ツーのW型です

表坂の中腹で


(2003/Feb)
これも現在(2006年2月)は建物の裏に隠れてしまった坂の中腹の石積み。この写真でははっきりしませんが、積み方は坂下の製氷工場で見たのと同じW型です。もしかすると同じ時期のものかもしれません。震災時に坂上からこのあたりを撮した写真はこちら
左は明治後期に作られたと思われる絵葉書大のカードに載っている谷戸坂の写真。向かって左側に写っている石垣が左へ回り込んだところが、前の写真の位置にあたります。あいにく、この写真では石の積み方は、はっきりとしません。その石垣の向こうに製氷工場の煙突と、家並みの最後に工場の建物が見えます。中央の黒っぽい大屋根の家が旧ヘボン邸(この時期にはヘボンはすでにアメリカへ帰っています)、その手前、堀川のこちら岸の坂の突き当たりに小屋が建っていますが、古老の話にある人力車の詰め所でしょうか。向かって右側は商家が軒を連ねていて、震災までは山下町のオフィスと山手の住宅とを行き来する外国人相手に商売が繁盛したという谷戸坂の往古がしのばれます。

谷戸坂上・アメリカ海軍病院跡


(2003/Feb)

(2003/Jun)
坂を上りきって右の一帯は、かつての米国海軍病院跡です。震災時の映像からは、このあたりにブラフ積みの石垣が巡らされていたことがわかります。その残骸かどうか、交番の脇に古そうな石積みが見られます。 米国海軍病院跡の石垣はブラフ積みですが、震災後に再構築されたもののようです。昔より丈は低くなりました。付近は横浜の人気スポットであるだけに、こうした地味な構造物は、知らぬ間に取り壊されてしまいそうで心配です。

谷戸坂・表坂の大擁壁

横浜市の資料ブラフ積み擁壁の典型として挙げられていた大壁。港の見える丘公園というあまりにポピュラーな場所にあって見慣れていたために、ついつい見過ごしていました。
大谷石の部分は震災後に補修されたものに間違いありませんが、その下の部分は、どれくらい昔までさかのぼるものなのでしょう。

裏坂の大擁壁


(2004/Mar)
(2004/Mar)

(2004/Mar)
谷戸坂の裏坂には、「フランス山」の擁壁として長大なブラフ積みが連なっています。震災前、左上の写真のところに「十字屋」という洋書店があったといいます。それが「丸善」になって関内へ移ったともいう古老の話もありますが、それは時代的にちょっと合わないような気がします。関内に丸善が店を開いたのは、ずっと古く明治2年だそうです。

震災前を知る人の話によると、裏坂は今より下の方まで階段が続いていたそうです。そこに段々畑のように家が立ち並んでいたといいますが、右の写真のように、その名残の石垣を垣間見ることができます。

(2005/May)

ことのついでに...フランス山・北斜面


(2006/Feb)
(2006/Feb)
フランス山の反対側(海側)の坂も昔から地図に載っている道です。ここには、ごらんのように古い石壁はありませんが、斜面の土に埋もれて古い瓦やレンガの破片が残されています。 瓦の破片。刻印らしきものが見えたので、デジカメ画像に撮って拡大してみたら、WORKSという文字が判読できました。後期ジェラール瓦の破片のようです。山上に明治29年から大震災まで建っていたフランス領事公邸のものでしょうか。
 



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