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大神宮山「ヴィラ・サクソニア」の風車跡

「根岸町麥田方面」

「根岸町麥田方面」
(『横浜電気鉄道新線路写真帖』
(横浜市中央図書館所蔵)所収)


■左の写真は明治末年に、本牧方面へ横浜電気鉄道(後の横浜市電)が延伸されたときに、現在の麦田町から撮影されたものです。左側に何本か立ってい電柱の間に西洋館らしきものが見えます。そこを拡大してみたのが下の写真。

「根岸町麥田方面」写真拡大

■電柱に重なっていて見分けにくいのですが、風車の矢羽根のようなものが写っています。実は、これこそが中区史に書かれていた大神宮山の風車のある洋館でした。

■中区史には地元の古老が描いた風車と屋敷の絵も載っていますが、屋敷の外観が少し異なっています。また位置的にも、麦田から大神宮山がこれほど近くに見えるというのは、現在の感覚ではしっくりきません。ただ、方角は合っていますし、そのように近い場所に、これほど巨大な風車が2つもあったのなら、それについての話や記録が残っていてもよさそうなものです。

■そう思って横浜の風車関係の史料としてよく紹介されている「ヴィラ・サクソニア」という邸宅の古写真を改めて眺めてみて驚きました。屋根の形や煙突など、建物の姿がウリふたつなのです。

フランス山の掲示板

山手フランス山の「ヴィラ・サクソニア」の掲示板。

「ヴィラ・サクソニア」(横浜開港資料館所蔵 FA120-7-2)

「ヴィラ・サクソニア」(横浜開港資料館所蔵 FA120-7-02)


■さっそく横浜開港資料館にも知らせて、確認して頂きました。つまり、これまで山手のどこかと推定されていたヴィラ・サクソニアは、実は大神宮山にあり、古老が語っていた風車のある洋館だったというわけです。

■後日、あらためて大神宮山のヴィラ・サクソニア跡を訪ねてみました。

ヴィラ・サクソニアの跡
(2004/Dec)

■右手の並んでいる家のあたりがヴィラ・サクソニアの跡地です。今でも崖が鋭角的に落ち込んでいます。ヴィラ・サクソニアの写真は、この写真より少し左へ下った位置から、これらの住宅の方向を写したものと思われます。

谷の下からの写真
(2004/Dec)

崖下からヴィラ・サクソニアの跡地を見上げたところ。風車のあったと思われる場所は、崩れた崖になっています。ひょっとすると関東大震災の爪痕がそのまま残っているのかもしれません。


「シフーナ」さんのこと

【注】 以下の内容は古い情報に基づいて書いたものです。最新の情報に基づいた「シフナー考」のページもご覧ください(2012年12月補記)

ヴィラ・サクソニアの所有者として古老の言う「シフーナ」さんは、ドイツ人貿易業者のリヒアルト・シフナー(Richard Schüffner)という人です。「サクソニア」は北ドイツを指すので、北ドイツの出身者かもしれません。Japan Directoryでたどると、明治27年(1894)頃にマイヤー商会というドイツ系雑貨輸入商社員として来日したようです。その後まもなく独立し、本町通りに事務所兼住宅を構えています。大神宮山に住居を移したのは内地雑居実施直後の明治33年(1900)頃と思われます。商売が順調で、この見晴らしの良い大神宮山へ大邸宅を構えるまでになったのでしょう。自慢の屋敷にヴィラ・サクソニア(「ドイツ人の別荘(または大邸宅)」の意)と名付け、得意の絶頂にあった様子が想像できます。ヴィラ・サクソニアの写真もこのころに撮影されたのではないでしょうか。

明治44年(1911)のDirectoryには "Mrs. E.Schuffner"の記載があります。Eはエルゼ(Else)の略です。彼女との間には1904年横浜生まれの息子がおり、 二人の結婚はちょうど大神宮山に屋敷を構えた前後かと思われます。

しかし、その後第一次大戦が始まり、日本とドイツが敵国同士になると、風車に発電機と無線機があることからスパイのぬれぎぬを着せられたりして、逆風が吹き始めたようです。 そして大正12年(1923)の関東大震災に遭遇します。山下町の事務所は完全に灰燼に帰したはずであり、邸宅内の風車もこのときに崩壊したとされています。邸宅自体は揺れに耐え、火災にも遭わなかったようですが、 1925、26年のシフナーの住所が隣の敷地に移っているところからすると、やはり何か被害を受けていたのかもしれません。また、1927年以降はDirectoryから彼の名が消え、昭和5年(1930年)時点で大神宮山 の彼の土地はすべて他人名義になっています。したがって、昭和2〜3年頃にはすべてを処分して横浜を去ったと思われます。その後どうなったか、機会があったら調べてみたいと考えています。


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